2026年9月9日OpenAlexメンバーミーティングの概要
2026年9月9日、第2回 OpenAlex Members Roundtable がオンライン(Zoom)で開催されました。スピーカーは CEO の Jason Priem 氏と COO の Kyle Demes 氏。参加者は Member 機関の代表者約25名で、前回(5月27日)以降の成果報告と、Q4 ロードマップに向けたディスカッションが行われました。
※ 本記事は会議の レトロスペクティブ、フォローアップ、ロードマップ、および トランスクリプト に基づいてまとめています。
前回の会議まとめ:OpenAlex Member Meeting 20260527
概要
今回の会議は大きく (1)前回以降の成果報告(レトロスペクティブ) と (2)Q4 に向けたロードマップ議論 の二部構成で行われました。Jason 氏は「スライドではなくGitHubの公開ドキュメントを使って説明する」スタイルを採用。OpenAlex のコードはすべてオープンソースであるため、AIにリポジトリのgit履歴を読ませれば誰でも同様のまとめを生成できる、とオープン開発の実質的な透明性を強調しました。
前回(5月27日)以降の主な成果
1. OQL(OpenAlex Query Language)の正式リリース
8月12日、新しいクエリ言語 OQL とビジュアルクエリビルダーが全ユーザーに正式公開されました。OpenAlex サイト開設以来最大の変更で、Web of Science や Scopus と同等の Boolean・近接検索構文を備え、特にシステマティックレビューへの対応が大きく改善されました。
- ビジュアルビルダー: 全エンティティタイプに対応するノーコードUI
- 保存ビュー(Saved column views): カスタム結果テーブル構成を名前付きで保存、デバイス間で同期
- BibTeX エクスポート 対応、CSV エクスポートのURL長制限撤廃
- OQL はAPI でも利用可能:
/queryエンドポイント、?oql=、POST 形式すべて対応 - オートコンプリートの高速化(日次約10.2万リクエスト、クレジット不要に)
- リリース直後のバグ修正も迅速に実施(NOT 検索バグ、ソート安定性、CNRS 報告のアフィリエーション検索バグなど)
参考リンク1: https://help.openalex.org/access/oql/
参考リンク1: https://help.openalex.org/access/oqo-schema/
Kyle 氏は「これは過去1年間、Web of Science・Scopus・Dimensions からの移行を試みるユーザーの声に応えたもの。システマティックレビュー開発チームと密接に連携して実現した」と補足しました。
2. ドキュメントの一元化:help.openalex.org
従来の Zendesk ナレッジベースと Mintlify 開発者ドキュメントを統合し、自社構築の単一ドキュメントサイト help.openalex.org として8月11日に公開。developers.openalex.org からのリダイレクト(約639ルール)も完備。
主な構成:
- How-to: 短い実用ガイド(プロフィール修正、作品の追加・削除など)
- Tutorials: 詳細な手順書(スナップショットのダウンロードなど)
- Reference: アクセス方法、データリファレンス、APIリファレンスの3部構成
特筆すべきは AI エージェント対応設計: llms.txt、全ページの Markdown 版、エージェント向けキュレーションガイドを搭載。OQL の正式仕様書も掲載されており、AI がドキュメントを読んで OQL を生成可能。
3. ワークタイプ分類の刷新
7月15日、ルールベース分類器(約200の監査可能なルール)が本番稼働。全コーパスの約10%(4,960万件)のワークタイプが変更されました。
- 精度: 69% → 78%(ブラインドゴールドセットで測定)
- 安全性監査: 43件の「誤→正」修正、「正→誤」はゼロ
- Conference papers: 280万 → 1,820万件、Book reviews: 8万 → 210万件
- 各分類は「どのルールが発火したか」を明示でき、誤分類は数日以内に修正可能
過去に寄せられた全サポートチケットのワークタイプ報告が今回の改善に活用されたとのことです。
4. コーパス全体のデータ再抽出
- 全1.72億ストアドランディングページの再パース: 4日以内に完了、API上で200万超のアブストラクトが新たに可視化(5月会議での「アブストラクトカバレッジ低下」問題への対応)
- 全6,800万PDFの再パース(GROBIDアップグレード): 24日間、約$14,000のコンピュート費用
- 600万件の所属情報改善
- 530万件のフルテキスト追加
- 390万件の機関リンク追加
- 230万件のアブストラクト追加
- 新ペイウォール分類器: ストアドランディングページから約140万の新規PDFを収穫
5. データクリーニング(クリーンレコード)
- 27,728件の重複ジャーナルレコード統合(600万件以上のワークに影響、4段階検証+人的監査)
- DOI ゴーストワーク排除: MAG時代の遺産バグで約93.5万件を削除、重複DOI率 0.41% → 0.10%
- 研究セキュリティ: 政府監視リストとRORの照合により、192の監視対象機関にわたる6,191件の過剰マージ修正
- アクセント文字修復: 約740万タイトル/アブストラクト、約1.7万件のアフィリエーション文字列の文字化け修復(CNRS報告、1週間以内に修正)
- 論文ライセンス修正 — 5月会議フォローアップの完了: パイプラインの2つのバグ修正により855万ライセンスレコードを修復、約150万ワークを修正(うち37.7万件が本来制限付きライセンスなのに
cc-byと表示されていた問題を解決)。9月9日のデータランで反映 - 約1,000万件のジャンクワーク削除: 総ワーク数が約4.87億 → 約4.77億に減少(品質向上のため)
6. リポジトリとロケーション
- 10ロケーション上限の撤廃: 従来すべてのワークに最大10ロケーションの暗黙の制限があり、約68.7万件のワークで計3,100万超のロケーションレコードが隠されていた。9月9日のデータランで全ロケーションが表示されるように
- メガワークの分割: タイトル正規化時に数字を除去していたバグにより1つのワークに100万以上のロケーションが集約される問題 → マージキー修正により約190万の新規ワークがすでに生成、合計約600万件の分割予定
- ロケーションが独立APIエンティティに: 独自の検索、フィルター、GUIページを搭載
- セルフサービスのハーベストステータス: リポジトリソースページに Harvest タブ(ベータ)を追加
- 削除セマンティクスの導入: スナップショットに
deleted_ids.csvを同梱、API に削除パスを追加
7. ファンディンググラフの拡充
- 7月のスプリントで30以上の新規ファンダー・アワードパイプラインを追加(Erasmus+: 32.7万プロジェクト/€340億、ロシア、ハンガリー、中国地方NSF×10、スペイン、オーストラリアなど)
- 続いてポルトガルFCT(7.6K → 99Kプロジェクト)、DOE、AMED、NASAなど
- 71.6万データセットにファンダーリンクを追加(DataCite経由)
- ファンダーデータベースをRORと同期する大規模プロジェクトが完了間近(従来のフランケンシュタイン的な約4.5万ファンダーリストからの移行)
8. 著者データ:修復から予防へ
- オーサーシップ修復キャンペーン完了: 360万シート修復(210万ワーク)
- 予防モードへ移行: 低精度の名前マッチング4層を廃止(誤マッチ約2,000件/日の防止)
- LLM による夜間マッチ品質モニタリングを導入
- ワーク帰属バグの修正(推測ではなく拒否する方式に)
- 個人データポリシーの公式発表([email protected]、GDPR対応)
参考情報: https://help.openalex.org/access/fixing-errors/authors/
9. APIプラットフォーム
- 有料顧客の Boolean クエリスロットル撤廃: 複雑クエリで25 req/s を確保(緊急制限で一部メンバーが14〜60%のクエリを失っていた問題を解消)
- APIキーローテーション: 即時/24時間/7日間の猶予期間付き
corpus=core|expansion|allパラメータの正式導入(旧 XPAC 呼称は非推奨だが互換維持)- 単一レコード検索の専用サービングレイヤー移行: 7月中旬以降、100%のシングルワーク検索を分離
- Member Plus プランティア(100万クレジット/日) の新設
10. サポートの製品化
- openalex.org 上でのチケット投稿・追跡が可能に(8月19日受付開始、Settings 内「My Tickets」ビュー)
- Zendesk への依存を段階的に削減、自社チケットシステムへ移行中
- AI による著者プロフィール修正が人的レビュー付きの日次オペレーションに
- 9月15日にチケットバンクラプシーを宣言予定: 未対応の約7,000チケットをクローズ(削除ではなく、開発作業として分類済み)。以降のステータスを実質的に意味あるものに
- 4名の追加採用を予定(うち1名はコミュニティエンゲージメント担当)
11. 研究ソフトウェアがグラフの一部に
Schmidt Sciences からの2年間の助成金(テキサス大学オースティン校 James Howison チームとの連携)により、研究ソフトウェアを OpenAlex のファーストクラスエンティティとして統合。著者、機関、トピック、ファンダー、利用論文とのリンク、フルテキストからのソフトウェア言及マイニング、研究ソフトウェアエンジニア向けのクレジットメトリクスを構築予定。
Q4 ロードマップ — 検討中の主要項目
Jason 氏は「Q3 終了まで残り3週間、Q4 ロードマップはまだ確定していない。メンバーの意見が Q4 の優先順位を直接形作る」と強調しました。
1. パブリック&共有コレクション(着地間近)
6月にクロスエンティティコレクション(ジャーナル、ファンダー、著者など任意のエンティティタイプ)が静かにリリース済み。ワークをコレクションでフィルタリング可能に。
残る課題は「共有」機能: 現在すべてのコレクションはプライベート。パブリックかつ共有可能なコレクション(査読済みリーディングリスト、コンソーシアム用コレクション、ベンチマークセットなど)を積極的に仕上げている段階。
メンバーへの質問: 最初にパブリックにしたい/共有したいコレクションは何ですか?コンソーシアムやライブラリシステムが共有コレクションを維持する場合、誰に編集権限を与えるべきですか?
2. OQL の改善継続
8月12日の正式リリース後、ポリッシュフェーズへ。メンバーが求める分析クエリ(「機関別にグループ化し、ジャーナルコレクションでフィルタリングし、トレンドを表示」など)がOQL一本で表現可能に。
メンバーへの質問: 試してみましたか?最初にうまくいかなかったクエリ、まだ表現できない分析質問は何ですか?(回答はQ4ポリッシュリストに直接反映)
3. AI / エージェントアクセス — 正直な状況報告
5月に「強い注力分野」と表明したが、出荷されたのはデータとAPIの基盤部分(whatsername 名前パーサーのオープンソース化、エージェントが読めるドキュメントサイト)。MCPサーバーはまだベータに到達していない — バックログに残っている状態。テスト志願者への連絡は MCPサーバーがテスト可能になり次第行う。
Jason 氏の見解:「MCP は過去の技術だと個人的には思っている。長期的に残らないだろう。ただし名前の認知度が高く、要望も多く、実装も比較的容易なので実装は予定している。実質的には、エージェントに help.openalex.org のドキュメントとAPIキーを渡せば、MCP なしでもすべての操作が可能」
メンバーへの質問: 5月以降、貴機関のAI方針は変わりましたか?今四半期で1つ出荷するなら — MCPサーバー、フルAPI上のエージェントSkill、コピペ可能なAPIレシピ集 — どれを実際に使いますか?
4. キュレーション認定制度 — まだ設計段階
5月に提案(個人キュレーターの研修+認定、メンバーに無料枠、Memberティア価値をキュレーション権から高度なコレクションへリバランス)。最も多くの議論を集めたが、構築はまだ開始されていない。キュレーション プラットフォーム 自体は改善が続いている(著者クレーム・プロフィールキュレーションは稼働中で活発に利用)。
Jason 氏:「研修+テスト形式で認定する計画。アフィリエーションエディタでは15〜30分のオンボーディングがうまく機能している。最も障壁の低い方法を見つけたい。技術的な問題ではなく社会的な問題であり、そのぶん時間がかかる」
会議中の議論では、参加メンバーから著者キュレーションの認定が引き続き最優先事項であるとの声が多数上がりました。「著者は自分でORCIDすら更新しないのだから、OpenAlexでの修正も期待できない。認定された第三者によるキュレーションが必要」という意見が支持を集めました。
5. AI アシストサポート
9月中旬を目標に AI ネイティブサポートデスク を導入予定: すべてのチケットをAIエージェントが処理し、すべての返信を人間が承認後に送信、ステータスはユーザーに可視、プレミアムチケットに2営業日SLA。著者プロフィール修正の日次運用(8月以降、人的レビュー付き)が実証済みテンプレート。
6. ユーザー ↔ 組織の紐付け(継続)
5月以降の進捗: 組織管理者がドメイン外のユーザーもメール招待可能に、ドメインマッチング時の既存アカウント自動紐付けも実装。残課題: 一括 CSV ロスターインポート。
会議中の主な質疑応答
Q. OpenAlex コアデータの正確性は年末までにどの程度になるか?
Jason 氏:「単一の数値で表すのは難しい。不正確さの種類は非常に多様。推測で言えば、すべての詳細が100%正確なワークは現在おそらく約30%、年末までに約50%程度。ただしOAステータスは業界最高水準(Scopus、Web of Science、Dimensionsなども Unpaywall のデータを利用)。トピック割り当ては正確/不正確の二択だと誤りも出るが、”近い”を含めればほぼ常に近い結果。著者の正確性は名前の一般性に大きく依存(ユニークな名前なら非常に正確、John Smith のような名前は困難)。最善のアプローチは sample API エンドポイントでランダムサンプルをエージェントに評価させること」
Q. アフィリエーションツールに年フィルターを追加できるか?(フランス系機関から7 likes)
Kyle 氏:「現在のモデルでは不可。アフィリエーションキュレーションは生のアフィリエーション文字列と機関をマッピングするもので、ワークとの紐付けがない。ある年だけCNRSをマッチさせるような処理はできない。ただし、この根底にあるニーズ(”このワークではうちだが、常にマッチさせるべきではない”)は次の段階のキュレーションとして良い候補」
Q. 著者プロフィールのキュレーションAPIはあるか?
Jason 氏:「はい、すべてのキュレーション操作がAPI経由で可能。ドキュメントも整備済み。現在のAPIキーでは自分のプロフィールのみ編集可能。第三者キュレーション(認定制度)は準備中」
Q. LibGuidesをワークから削除すべきでは?
Jason 氏:「Microsoft Academic Graph の遺産。当初はライブラリアンの仕事が評価されると歓迎されると思ったが、リサーチライブラリアンの初めての全員一致意見として『削除してほしい』との声。次の Members Roundtable までに削除を目標に」
Q. まだインデックスされていないワーク(例:NCBI Bookshelf)をフラグする方法はあるか?
Jason 氏:「現時点では [email protected] に連絡いただければ対応。問題リストに追加し、次回会議までに解決を目指す。特にリポジトリの追加は今や非常に容易で、1日に10でも100でも1,000でも追加可能」
フォローアップ事項(会議後のトラッキング)
| 項目 | ステータス |
|---|---|
| retro.md の oxjobs リンク修正(内部リポジトリへの誤リンク) | 完了(9/9) |
| サポートページの「+ New request」リンクの拡大 | 検討中 |
| LibGuides のワークからの削除 | 次四半期で対応予定 |
| 未インデックスワークのフラグ機能(NCBI Bookshelf 等) | 次回会議までに解決目標 |
| キュレーション認定制度の設計と実装 | 最優先課題、社会的課題として慎重に設計中 |
| アフィリエーションキュレーションの次段階(ワーク/年スコープ例外) | 将来の候補として検討 |
まとめ
第2回 Members Roundtable では、OQL の正式リリース、ドキュメント一元化、コーパス全体のデータ再抽出、大規模なデータクリーニングなど、5月以降の目覚ましい進捗が報告されました。特に OQL はシステマティックレビュー対応を含む学術検索の決定版として位置づけられ、help.openalex.org のAIエージェント対応設計と合わせて、OpenAlex の利用体験を大きく変える転換点と言えます。
Q4 ロードマップについては、パブリックコレクション、OQL の継続改善、キュレーション認定制度、AI サポートの4つが主要テーマ。中でもキュレーション認定制度は複数の会議を通じてメンバーの最優先要望であり続けており、技術的ではなく社会的な設計課題として慎重に進められています。
データ品質は「単一のゴールドスタンダードに到達するものではなく、コミュニティとの継続的な対話プロセス」であるという Jason 氏のメッセージが印象的でした。OpenAlex はスコープ(カバレッジ)、オープン性、そしてこの対話的プロセスこそが競合との差別化要因であるとの認識が示されました。
次回の Members Roundtable は来四半期に開催予定です。
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