How ABES Became the Second-Largest Provider of ROR IDs in Crossref Metadata?
(ABES(フランス高等教育書誌局)がどのようにしてCrossrefのメタデータの中で2番目に大きなROR IDのプロバイダになったのか?)
著者: Carole Melzac、Carlos Riquelme
公開日: 2026年9月17日
DOI: 10.71938/rkk2-5510
出典: Research Organization Registry(ROR)
概要
フランスの高等教育・研究書誌機関 ABES(Agence bibliographique de l’enseignement supérieur)は、フランス国内で学位取得された博士論文に対しCrossref DOIを大規模に登録し、そのメタデータへ研究機関識別子 RORと、利用可能な場合には研究者識別子 ORCIDを付与している組織です。
2026年4月に約18万件の過去のフランス博士論文へCrossref DOIを登録したことで、ABESはCrossrefメタデータにROR IDを供給する組織として急上昇し、世界で第2位規模となりました。
“中核となる考え方は、国内の信頼できる典拠データ基盤である IdRef を、国際的なPID基盤である DOI・ORCID・ROR と接続することです。”
ABESとは何か
ABESは1994年に設立されたフランスの公的機関で、主な役割は以下のとおりです。
- フランスの大学図書館の総合目録である Sudoc(Système Universitaire de Documentation)の運営
- フランスで審査・授与される博士論文の法定納本の管理
- 博士論文ポータル theses.fr の提供
- 個人・組織・概念に関する典拠データベース IdRef の運営
博士論文はSudocに収録されるだけでなく、主題索引や審査委員会との関係なども表現可能な、詳細なTEFメタデータ形式で記述されています。
フランス博士論文の国内識別子:NNT
フランスでは1985年から、博士論文ごとに NNT(Numéro National de Thèse) という識別子を付与しています。

NNTは4文字ずつの3区分で構成されます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 第1区分 | 年 |
| 第2区分 | 学位授与機関のコード |
| 第3区分 | 一意な論文番号(主に連番) |
このNNTを用いて、たとえば https://theses.fr/2026SORUL032 のような恒久URIを構築できます。これは、フランスにおけるオープンサイエンスと識別子活用の早期からの取り組みを示しています。
国内目録からPID戦略へ
フランスではオープンサイエンスと永続的識別子(PID)の導入を進める国家戦略が採られています。その一環として、フランス高等教育・研究省はABESに対し、国内の博士論文すべてにCrossref DOIを割り当てる事業を委託しました。
DOI付与の2つの主目的
-
長期保存の強化
- 国際的に確立されたDOI基盤を活用し、博士論文の持続的な参照可能性を高める。
-
国際的な研究エコシステムへの接続
- Crossrefのメタデータ流通・発見基盤を通じ、フランスの研究成果の可視性を向上させる。
このプロジェクトは2025年に開始されました。
IdRefがORCIDとRORをつなぐ仕組み
Crossrefのメタデータは、フランスの博士論文に使われるTEFほど詳細な記述を対象にしていません。たとえばTEFでは、主題情報や審査委員との関係も表現できます。
一方Crossrefが推奨する主なPIDは次の2つです。
| 対象 | PID | 役割 |
|---|---|---|
| 個人・研究者 | ORCID | 研究者を一意に識別する |
| 組織・研究機関 | ROR | 所属・研究機関を一意に識別する |
しかし、ABESの博士論文メタデータはもともとIdRefを中核に整備されており、ORCIDやRORが標準で入っていたわけではありません。そこで、IdRefと国際PIDを照合・連携する仕組みを構築しました。
ORCIDとの連携
ABESとORCIDの協力関係は、2016年の覚書(MoU)にさかのぼります。ABESはCouperinとともにフランスのORCIDコンソーシアムを共同主導しています。
ORCIDから毎年提供される大規模データを分析し、共著関係などを用いたアルゴリズムによってIdRefレコードとORCIDを照合しています。
2026年9月時点の状況
- ORCIDを外部識別子として持つIdRefレコード:約19万5,000件
- 前年比:18%増
IdRefからORCIDへの変換は、専用のマイクロAPIで利用できます。

例:https://www.idref.fr/services/idref2orcid/150117671

IdRefにおけるORCIDの記述例
RORとの連携
組織についても同様に、IdRefからRORへ接続できます。

例:https://www.idref.fr/services/idref2ror/033702462

分散型の目録作成ネットワークが支える品質
IdRefと国際PIDの対応付けは、単なる自動処理ではありません。
- 3,000人以上の目録作成者が、Sudocやtheses.frなどのデータベースへ継続的にデータを登録・整備
- ABESが中央で調整・品質管理
- フランス各地の図書館員が、組織改編・名称変更・統合などの変化を追跡
- 博士論文に関わる機関のROR対応は、件数が限られることから人手による慎重な照合も実施
この国内の典拠データ管理体制が、国際的な識別子の信頼性を支える基盤となっています。
RORを「推奨」ではなく必須項目に
CrossrefではRORとORCIDは推奨される識別子ですが、ABESはより強い方針を採用しました。
“フランス博士論文のDOI登録時、ROR IDを必須メタデータとする。”
その結果、フランスの博士論文に関するDOI登録にはすべてROR IDが含まれ、ORCIDについても取得可能な場合に併せて登録されています。
主要な成果と数値
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| 過去分博士論文のCrossref DOI登録 | 約18万件(2026年4月) |
| 今後の年間DOI登録見込み | 約1万〜1万3,000件 |
| ORCIDを持つIdRefレコード | 約19万5,000件(2026年9月) |
| ORCID連携レコードの前年比 | 18%増 |
| Crossref経由で学位論文が追加されたORCIDプロフィール | 3万3,000件超 |
| 博士論文に関連する研究機関 | 約220機関 |
| データ整備に関与する目録作成者 | 3,000人超 |
約18万件の遡及登録が、ABESがCrossrefのRORメタデータ提供組織ランキングで急浮上した直接的な理由です。一過性の処理ではなく、フランスの博士論文には今後も継続してDOIが登録されます。
意義:フランス研究の国際的可視性を高める
この取り組みによって、フランスの博士論文はCrossrefを経由して国際的な研究情報インフラに接続されます。
特に重要な効果は次のとおりです。
- 博士論文がDOIにより安定的に参照・引用可能になる
- 論文の所属機関がRORによって明確化される
- 研究者がORCIDを持つ場合、学位論文がORCIDプロフィールの研究成果として自動反映され得る
- 国内の高品質な典拠情報を、国際標準のPIDエコシステムへ橋渡しできる
- 機関・研究者・研究成果の関係が、より機械可読で再利用可能になる
記事は、この仕組みを国内PIDと国際PIDの補完関係として位置づけています。つまり、ORCIDやRORが国内の典拠データを置き換えるのではなく、IdRefのようなローカルな知識基盤と接続して初めて大きな価値を生むという考え方です。
“「ORCID か、それ以外か」ではなく、「ORCID と、ほかのPID」
国内の信頼できる識別子・典拠データと国際PIDを併用することが、研究情報の可視性・相互運用性・信頼性を高める鍵であると結論づけています。”
関連リンク
- ROR記事(英語)
- ABESによるフランス語版記事
- theses.fr — フランス博士論文ポータル
- IdRef
- Crossref
- ROR
- フランスのオープンサイエンス戦略(2026–2033)


