「言語の使用」が具体的に何を指すかというと、話し、読み、聞き、書き、見るすべてのケースで、言語のアウトプットとインプットが学習者、言語教育者、題材によって行われる場合を指します。 ACTFLは、集中訓練プログラムのように学習対象言語のみを使用する場合を除き、授業時間の90%以上を学習対象言語によって学習することを推奨しています。学習対象言語を使用しない特別な理由がない限り、学習対象言語の集中訓練を提供することを目標としています。
What(なにを)?
Why(なぜ)?
第二言語習得の研究によると、学習者が目標言語を習得するためにはその言語にできるだけ多く触れる必要があるという研究結果が出ています。学習者は学習対象言語に積極的に関わる必要があります。はじめて自転車の乗り方を学ぶときと同じように、言語学習は実践することによって最も効果的に達成されるのです。多くの学習者にとって、一日のうちで唯一学習対象言語に触れられる機会である教室での時間は貴重なものです。言語学習の成功のために豊かな言語環境を提供し、この言語に触れる機会を最大限活かさなければなりません。学習言語が近くの国や海を隔てた遠い国であっても、学習者の目標がその言語が使われている文化の中で生き抜き、成功する能力を身につけることを目標とするのであれば、その言語を真の意味で体験することと、それにふさわしい題材を提供する必要があります。
・学習者は、言語教育者から口頭で大量のインプット提供されることによって初めて言語を習得(内面化)することができるとされており、そのインプットは興味深く、生徒の現在の能力レベル(i + 1)を少し超えたものが望ましく、また文法的に連続しないものである必要があります。(Krashen, 1982) [iは学習者の現在の能力を意味し、+1は学習者のその時点での能力を超えた次のレベルを表します。]
・学習者は、他の学習者との意味づけを通して、別の言い方をするとパズルを解くように言語を習得するとされています。(Vygotsky, 1986)
・学習者が理解可能なインプットを大量に行い、それに意味づけを行うことで、学習者は聞いたことを理解および記憶し、それらを使って自らのメッセージを形成していきます。(Long, 1981; Swain, 1995)
How(どのように)?
・言語教育者は教室で対象言語を使用する際、目的意識を持つ必要があります。ただ単に言語を使用することが目的となることは避けるべきです。
・言語教育者は、学習者が、言われたこと、読んだこと、聞いたこと、見たことの「要旨」を常に理解し、うまく参加するために何をすべきかを理解できるようにしなければなりません。
・学習対象言語の使用は習熟度を上げるために必要ですが、それだけでは不十分です。学習対象言語の利用は理解を促進し、意味づけをサポートするためのさまざまな戦略を伴う使用である必要があります。理解しやすいインプットとアウトプットは密接に関係しているのです。
・学習対象言語をより没入的な環境で利用できるようにするための戦略には、次のようなものがあります。
①豊かな言語環境の提供
言語能力の向上を目標とする場合、指導は学習対象言語が豊富な環境で行われる必要があります。具体的には、言語教育者による発言や利用されるもの、読んだり見たりするもの、アクセスしたり作成したりするもの、ウェブサイトやビデオチャットなどのオンラインリソースなどが含まれます。言語が豊富な環境には、教室の本当のテキストや実物教材が含まれることがあります。
②文脈、ジェスチャーや視覚的なサポートを通した言語の理解・言語の生成のサポート
学習者が理解するためには、文脈(大元の背景情報)が必要となります。これは、ジェスチャー、ビジュアル、実物、また以前の学習や経験との関連付けなどを通じて提供されます。例えば、学習者に家族を紹介するとき、言語教育者は対象文化の様々な家族の写真を指し示し、説明するかもしれません。学習者が自分の名前を書いたり、紙の特定の部分に記入したりすることを求められている場面では、言語教育者は実物を見せたり投影したりしてそれをモデル化します。 学習者が好きなスポーツについての質問に答える場合、言語教育者は様々な選択肢が絵で描かれたプリントを画面に写したり印刷したりすることで、学習者答えられるように、頻繁に選択肢を指し示したり、繰り返したりすることができます。YesかNoかの質問には、”yes or no? “と繰り返しながら、”thumbs up(親指を上げる仕草)/thumbs down(親指を下げる仕草)”というシンプルな表現で答えられるようにするとよいでしょう。これらのベースとなるものはすべて、学習対象言語を学ぶクラスで心地よく過ごし、対象言語の習得の成功を促すものになるのです。
③詳細よりも意味を重視する
初級・中級レベルの言語学習者は、聞いたり、読んだり、見たりした内容を大まかに理解してから、詳細やニュアンスを理解するためのサポートが必要です。リスニング、リーディング、ビューイングのいずれにおいても、言語学習者はわかりやすい文脈を必要とし、ビジュアルによるサポートのみならず、新しい情報の発見や主旨の把握などといった、焦点を絞ったタスクが必要な場合もあります。文字を見ることや文法や語順の手がかりを探すこと、また詳細を理解すること以前に、言語学習者は全体的な意味を理解しようとする必要があるのです。
④理解度を確認するための理解度チェックの実施
学習者にとって、自分の理解度を頻繁に示すのはいいことです。理解度をその都度確認することで自らの努力の進捗具合を評価として得ることができるとともに、具体的に何を改善する必要があるのかを理解できるようになります。また言語教育者側も、示された理解度から指導の調整に必要な情報を得ることができます。理解度チェックの例としては、指を1本か2本立てて質問に対する答えを示す、ホワイトボードに答えを書く、文章に合わせて正しいフラッシュカードを掲げる、理解を示すためにビジュアルを並べる、オンラインの回答ツールを使う、いくつかの選択肢の中から最適な要約文を選択する、言語教育者が用意したマーカーを使って学習者に自分の作品を添削させるなどが挙げられます。
⑤言語学習者と意味について議論し、言語学習者間の議論を促進する
言語教育者は、学習者が意味を議論するためのキーフレーズを紹介、例示し、練習して実際に使うよう促してください。最初は、”Really? Me Too!」「Wow!Cool!」からはじまり、そのあと学習者は、”I like it too because…”、”I agree because I too … “とコメントを広げていくかもしれません。そして言語教育者は、”that means almost same as ___” などのフレーズを使って、新しい単語について議論するよう学習者に促すこともできます。対人コミュニケーションの場面では、学習者はより自然なやり取りをするために特定のフレーズを必要とする場合もあります。言語教育者はその場でそういったフレーズを伝授し、物理的なものでも画面上でも構いませんので「ワードウォール」にキーフレーズを追加します。こうすることでクラスの後の言語活動においても、学習者がそれらのフレーズにアクセスできるようにすることが重要です。
⑥時間の経過とともに流暢さ、正確さが増し、より複雑な文章を作り出すような会話を引き出す
単純な「はい」「いいえ」で回答できる質問ばかりだと、学習者は初心者レベルにとどまります。言語教育者は、言語学習者をより高いレベルのパフォーマンスに導くために、モデルとなっている質問、セリフ、説明の種類をどのように増やすかを慎重に検討する必要があります。はじめの一歩として、基本的な質問に「誰が、何を、どこで、いつ、どのように、なぜ」を追加することにより、より詳細な情報を説明するよう学習者に求めることです。対人関係の中でこのような質問をする練習をすることで、お互いの言語能力を向上させることができます。
⑦自己表現と自発的な言語使用の促進
たとえ単語レベルや包括的なジェスチャーであってもよいので、学習者は学習を始めたその時から学習対象言語での反応を示すことができるということが重要です。言語教育者がビジュアルや簡単に部分的な変更できる反復フレーズを使って、多くの選択肢を与えることにより、学習者をサポートすることができます。学習者に自信がついてきたら、自分の語彙をつかって自らのメッセージを作るように促しましょう。習得した語彙や文法構造を新しい文脈に利用することで、初級から中級レベルへステップアップすることができます。
⑧理解が追い付かないとき、説明や助けを求めるための方法を学習者に伝えておく。
言語教育者と学習者の両方が学習対象言語を使用できる状態を保つ目的で、学習者に学習対象言語でヘルプや説明を求めるために必要なフレーズを教えましょう。(What? Huh? What do you mean by___?How do you say ___? I don’t understand. Can you repeat that?)これらの言語学習補助文章は、教室でよく使われる他のフレーズと同様に、「ワードウォール」に掲載したり、リストに印刷して学習者に渡したり、机の上に貼っておくことも可能です。
⑨意味や理解を確認するために、言語教育者の母国語をデフォルトとして使用しないこと。
上記と同様に重要なのは、学習対象言語を使うべきでない場面を知っておくことです。(学習者の発言、聞き取り、読み書きなどのアクティビィティのうち10%以下に抑える)言語教育者と学習者の間のプライベートなやり取りで理解を深める場合、学習プロセスを振り返る場合、またはテスト結果についてよりよくわかってもらうといった目的がある場合、学習対象言語を使用することについての指導上の決定は慎重に行いましょう。母国語は、アプローチの意義についての説明や、学習者がクラスで求められることを、を説明したり、演じたり実演すると時間がかかりすぎる概念の説明、ある考えを簡単に処理するためといった非常に戦略的な目的のために使いましょう。例えば、これまで聞いて、使用したすべての例から、「所有」という概念がスペイン語でどう表現されていると思うかパートナーと話し合う際など)。ただし母国語は安易に使うべきではありません。そうすると、言語学習者は単に母国語で言われた言葉を聞くのを待つだけになってしまう可能性があります。学習対象言語だけが聞こえる、または見える国にいる場合、このような集中訓練環境におかれる学習者は、教室の環境で「意味を作る」ことに取り組むことで標識を理解し、店員を理解し、レストランで注文することに心の余裕を持つことができる人たちとなります。
注記:古典的な言語教育では、言語指導の焦点は翻訳することが中心となりますが、対人会話や発表用のライティングのタスクは、一語ずつ読んだり書いたりするのではなく、「要旨」を探し、「大きなかたまり」で考える流暢さを養うものとなります。
集中訓練プログラムでは、理解可能なインプットを最大化するという目標は同じですが、文脈が異なり、使用するモデル(90/10、80/20、50/50モデルなど)によってL1(母国語)の混入度合が決まり、時間の経過と共に増加することがよくあります。(これも例えば、英語教育を導入するためや自治体のテストに備えて科学や数学などの専門分野の内容やコンセプトに関する英語の語彙の練習を行うためという教育的な理由からとなります。)
翻訳元URL:
https://www.actfl.org/resources/guiding-principles-language-learning/target-language
References:
Krashen, S. D. (1982). Principles and practice in second language acquisition. Oxford, UK: Pergamon.
Long, M. (1981). Input, interaction, and second-language acquisition. Annals of the New York Academy of Sciences, 379, 259-278.
Polio, C. G., & Duff, P. A. (1994). Teachers’ language use in university foreign language classrooms: A qualitative analysis of English and target language alternation. The Modern Language Journal, 78(3), 313-326.
Swain, M. (1995). Three functions of output in second language learning. In G. Cook & B. Seidlhofer (Eds.), Principle and practice in applied linguistics: Studies in honour of H. G. Widdowson (pp. 125-144). Oxford, UK: Oxford University Press.
Turnbull, M., & Arnett, K. (2002). Teachers’ uses of the target and first languages in second and foreign language classrooms. Annual review of applied linguistics, 22, 204-218.
Vygotsky, L. S. (1986). Thought and language, Revised edition. Alex Kozulin, Ed. Cambridge, MA: The Massachusetts Institute of Technology Press.
Further web-based resources include:
Ohio Department of Education — This one link contains sub-links to many other articles that explain how to use this core practice in the language classroom:
http://education.ohio.gov/getattachment/Topics/Ohio-s-New-Learning-Stand…
Foreign Language Annals (access is available through ACTFL website):
https://www.actfl.org/publications/all/foreign-language-annals
The Language Educator had a focus issue on comprehensible input and output (see October / November 2014, 9:5), available at ACTFL website: https://www.actfl.org/publications/all/the-language-educator